vol.37 笑うベートーヴェン!?

ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン

クラシック音楽にそれほど詳しくない方でも名前だけは極めて有名な作曲家であるベートーヴェン(1770-1827)。

彼の名前を聞いて、このコラムをご覧の皆様には、

果たしてどのような印象をお持ちでしょうか。

「何か固くて深刻」

「真面目」

「とっつきにくい人柄」

「気難しそう」

などなど。

こんな先入観が支配しているかもしれませんね。

私自身もこれまでの演奏活動で思うことは、

どうも演奏内容が軽くなってはいけないのではというタブーのような感覚を時折感じることがあります。

まあ、実際に、彼の代表作品の多くは英雄的な強さ或いはそれへの憧れが感じられたり、

人生の苦悩が垣間見えるものもありますし、

渋味のある一筋縄では理解できないような音楽にも聞こえたり。

勿論、それらの作品は素晴らしい名曲であることは紛れもない事実であります。

 

 

 

若かりし頃のベートーヴェン
若かりし頃のベートーヴェン

でもですよ、ベートーヴェンの57年の人生において、

もしも上記のイメージのキャラクターでずっと生活していたとしたら、

それはそれでとてもしんどい生活です。

私の想像ですけども、

少なくとも彼が耳の病気で苦しむ前までの青年時代には、

先述したイメージは薄いのかもしれません。

ベートーヴェンも人間、

きっと青年時代には時にはビールを飲んで腹を抱えて笑ったこともあったでしょう。

楽しく遊ぶこともきっとしていたはずです。

それに、音楽家として成功を目指し、ギラギラと輝いていたでしょうから、

まさか世間の様子とは断絶したようなことはそれほどしていなかったでしょう。

 

 

 

 

私が組んでいます室内楽ユニット

「クラリネット、コントラバス、ピアノの愉快なトリオ」は、

今年で活動10周年を迎えました。

記念の年にそれに相応しい公演プログラムをやろうと考えた挙句、

オール・ベートーヴェン・プログラムを考えたのです。

でも、固定観念のあるベートーヴェンを表現するのではなく、

ユニット名称にあるように、

一種笑いのエネルギーのような、

ポジティブな活力を表現したいと思いました。

そんな私たちトリオがこの度、3月26日に開催する公演にて、

ベートーヴェンの2つのピアノ三重奏曲を取り上げます。

ひとつは変ロ長調Op.11「街の歌」

そして、七重奏曲変ホ長調Op.20の作曲者自身の編曲版によるピアノ三重奏曲です。

 

 

なぜにこの2曲なのか、それはこの2曲に共通した要素があるからです。

それは、初演時から人気が高い作品だったということです。

では、その人気の理由はどこにあったのでしょうか。

1797年作曲の「街の歌」は社交的な音楽で親しみやすいものです。

「街の歌」の名称は、この曲の第3楽章を当時流行していたヨーゼフ・ヴァイグル(1766-1846)の歌劇『船乗りの恋、あるいは海賊』からのアリア「仕事の前に」を主題に用いて変奏曲形式にしたことからでして、

流行に乗った音楽内容は人々の心を掴んだのでした。

 

1799年作曲の七重奏曲の人気はもっと凄かったようです。

この曲、演奏時間は40分を超える長さなのに、

娯楽的でサロン風の音楽として親しみやすいということ、

それだけではなく旋律は明るく、リズムは堂々としていることも人気の要因と云えます。

事実、この作品の初演以後、次々と様々な編成による編曲版が出現したのですから、

このことからもこの曲の人気の高さがうかがえます。

また1803年には作曲者自身の編曲によるピアノ三重奏版が書かれています。

(私たちのトリオは、この版を基本として、原曲の七重奏曲の内容も鑑みまして演奏します。)

作曲者自らが自分の作品の編曲版を書くあたり、

ベートーヴェンも人気作品を普及しようと考えると同時に、

それにあやかって収益を上げようとしていたのかもしれません。

当時の社会では、編曲版の販売はお金儲けには都合がよかったと思われます。

 

どうやら、人気が出る音楽の傾向を青年ベートーヴェンはうまくキャッチして、

ある程度は大衆迎合的に、

でも後の作品に出てくるようなベートーヴェンの革新性も表現するような新しさも織り交ぜて、当時の社会にうまく溶け込んでいったのでしょう。

そりゃそうでしょう、

若者が一人でただ「俺の音楽を聞け!」と叫んでも、

周りの人々に認められなければ生きていくことはできません。

これは、いつの時代でも同じことなのかもしれませんね。

 

 

ところで、私たちトリオが取り上げる予定の2曲、

本来の編成はクラリネット、チェロ、ピアノであって、

コントラバスなんか入っていません。

ということは、チェロを使わずにコントラバスを使うのですが、

このことが、私たちトリオが目指すコンセプト「笑うベートーヴェン」が表現出来るのではないかと考えています。

そもそも、七重奏曲の編成にはコントラバスが含まれていますし、

2曲とも楽曲のキャラクターがモーツァルトのディヴェルティメントに近いものを感じさせられるからです。

チェロに比べて音の性質が鈍角なコントラバスとクラリネットとのまろやかな音色が溶け合い、そしてピアノがしっかりと音楽の土台を築く、

3つの楽器による和やかな融合が、今回取り上げます2曲に適度に合致するのみならず、

新しい楽しみ方が産まれるのではないかと目論んでいます。

 

 

というわけで、今回のコラムは、事実上公演に対する広報活動の一環として書きました。

それだけ、力が入っているということです。

私たちトリオの演奏から、ベートーヴェンの音楽の爆発するようなエネルギーが表現出来て、また新鮮な感覚でみなさまが楽しんでいただければいいなあと願っています。

 

2016.2.11