vol.42 皇帝を探せ!

フランツ・ヨーゼフ・ハイドン
フランツ・ヨーゼフ・ハイドン

このコラムを執筆している現在、

私はハイドン/弦楽四重奏曲第77番ハ長調Op.76-3「皇帝」

を指揮者として取り組んでいる最中です。

2017年6月に、この曲をあるアマチュアの合奏団が演奏する予定。

コントラバス奏者である私が、指揮者として弦楽四重奏曲の名曲に携われるということは、珍しいことではあるのですが、同時に大変光栄なことでもあります。

だって、ハイドンの最高傑作のひとつですよ。

こんな体験、絶対に貴重であり、勉強になりますし、私自身も成長するはず。

 

 

ハイドンによる皇帝賛歌の自筆譜
ハイドンによる皇帝賛歌の自筆譜

ところで、この副題の「皇帝」について、少しばかりのうんちく話を。

この曲の副題は、第2楽章に「オーストリア国家及び皇帝を讃える歌」を主題とした変奏曲があることから名付けられました。

その主題の曲、「皇帝賛歌」とも言われますし、「神よ、皇帝フランツを守り給え」とのタイトルを言うことも。

ここで言う、皇帝フランツとは、神聖ローマ帝国の皇帝フランツ2世のこと。

この歌曲、初演はフランツ2世の誕生日であった1797年2月12日。

当時はフランスのナポレオンが破竹の勢いで勢力を拡げていた時期。

オーストリアもその脅威に怯えていたのでした。

ハイドンの願いむなしく、結局はナポレオン軍にウィーンは陥落されたのですが、

その後、オーストリア帝国成立後に国歌として採用されました。

でも、その国歌、現在はオーストリアでは使われず、ドイツの国歌になっています。

国を超えて国歌として採用されるハイドンの曲、

こんな例、他にもあるのでしょうかねえ?

 

 

そんなことはともかく、この楽章、変奏曲形式としては、とてもわかりやすい内容。

だって、旋律は一切いじらずに楽器ごとに担当していき、伴奏音型やハーモニーの変更で曲を進行させるというもの。

その内容がやっぱり名曲に値するものですね。

練習をしている時も、なんだか感銘を受けてしまうのです。

 

 

弦楽四重奏曲「皇帝」第1楽章冒頭
弦楽四重奏曲「皇帝」第1楽章冒頭

ところで、原曲の歌詞冒頭に注目。

いきなり、タイトルである「神よ、皇帝フランツを守り給え」が出てきます。

これをドイツ語で表記するとこうなります。

Gott, erhalte Franz, der Kaiser

 

この歌詞、弦楽四重奏曲の他の楽章にも登場するのです。

え、第2楽章以外にも?

 

そうそう、第1楽章に冒頭から出てきます。

先に示しましたドイツ語の歌詞がヒント。

それでは、その歌詞の頭文字を太文字で記してみます。

Gott, erhalte Franz, der Kaiser

 

この太文字の部分をドイツ語音名にすると、

G E F D C

となります。

ちなみに、Kの文字は強引ですが、Cの文字に置き換えます。

そして、馴染みのあるイタリア語音名なら、

ソ、ミ、ファ、レ、ド

 

さあ、この音の配列、見つかりますか?

そうなのです、いきなり第1ヴァイオリンが♪ソ、ミ~ファ、レ、ド

と演奏するのです。

それだけではありません、3小節目にはヴィオラもこの配列を演奏。

そして5小節目にもヴィオラが、6小節目には第2ヴァイオリンが。

そして、この後も、音のキーは変わりますが、転調してこのモティーフはたくさん出現するのです。

さあ、こうなると、楽曲分析のために、この皇帝のモティーフを探してみたくなるのです。

いざ、皇帝を探せ!

 

 

とは云っても、その数を数えたところで、「だから何なんだ」と言われたら、そのとおりのこと。

とにかくたくさんあるのです。

でも、この重要なモティーフが有機的に構成された素晴らしい曲であることには変わりありません。

第3楽章のメヌエットにも、そのモティーフの匂いがしますし、

第4楽章にもなんだか匂います。

しかも、第4楽章はハ短調からハ長調へと転調して、曲の終結部は感動的。

なんだか、「暗から明」「苦悩から喜びへ」のベートーヴェンのような。

いやあ、やっぱり名曲なんだなあ。

 

 

本番まではあと少しの時間となりました。

アンサンブルのメンバーとこの曲と関わって1年、

しっかりといい勉強をしてきましたから、取り組みが終わるのも寂しいのですが、

この体験、大切にしたく、こんなコラムを書いた次第。

あとは、本番での演奏をじっくりと味わっていたいなあ。

 

2017.5.29