vol.45 ボッケリーニが愛したマドリード

ルイジ・ボッケリーニ
ルイジ・ボッケリーニ

私自身の演奏活動において、あまり有名ではないけれども、もっとたくさん取り上げたい作曲家の作品というものを、取り上げていきたいという思いがあります。

その中の一人が、イタリアのチェリストで作曲家だった

ルイジ・ボッケリーニ(1743-1805)です。

 

彼はイタリア出身ですが、1769年からはスペインに移り、マドリードで後半生を過ごしています。

 

ところで、ボッケリーニはマドリードという街をどのように感じていたのでしょうか。

少なくとも嫌いな街ではなかったと思います。

マドリードを愛していたであろう、そんな思いが作品に表現されたものがあります。

それが、1780年に作曲されました

小弦楽五重奏曲ハ長調 Op.30-6 G.324 「マドリードの通りの夜の音楽」

なのであります。

 

この曲、構成からしてとてもユニーク。

5楽章もありますが、演奏時間は10分もありません。

そして、その中身も極めてユニーク。

ここで、私なりにそれぞれの曲の中身を解説してみます。

 

第1楽章:アヴェ・マリアの鐘

  教会が鳴らす鐘の音が、夕方の6時を知らせます。

  この音、弦楽器のPizzicato奏法で、開放弦で鳴らされます。

  1小節の中に音が3つ、それが3小節ありますので、

  3×3=9の鐘の音を聞くことになります。

 

第2楽章に入る前に、兵士の太鼓が打ち鳴らされます。

この表現、ヴァイオリンのC(ド)の音で表現されるのですが、

事前に学習しないと、これが太鼓の音とは理解できないかもしれません。

 

第2楽章:盲目の乞食のメヌエット

  マドリードのにぎやかな夜は、この音楽で始まります。

  これは、世俗な雰囲気を醸し出されて、視覚的にも楽しいです。

  ちなみにこの楽章では、チェロ奏者は楽器を横に構えてギターのように指で弾きます。

 

第3楽章:ロザリオ

  カトリック教会の祈りの場所を表現された音楽。

  祈りの調べがあって、返答のような調べがあって、

  その組み合わせが3回出てきます。

  祈りの調べの途中には、

  第2ヴァイオリンやヴィオラがPizzicato奏法で弾かれるE(ミ)の音が出てきます。

  この回数も3回が3セット、3×3=9という鐘の音の構成がここでも出てきます。

 

第4楽章:街頭歌手のパッサカリア

  街のストリートミュージシャンが歌っている様子を表した音楽。

  ヴァイオリンのPizzicato奏法は、まるでギターの伴奏の感じ。

  第1チェロの旋律が歌手の調べなのでしょうか。

 

第5楽章に入る前に、再び兵士の太鼓の音がヴァイオリンで表現されます。

 

第5楽章:リティラータ

  軍楽隊なのか、夜間外出禁止の令が鳴らされます。

  夜の賑わいももう終わり、はやく帰宅しなさいということなのでしょうか。

 

と、曲はこんな感じです。

文字で見ただけでも楽しい音楽であることがわかっていただけたでしょうか?

でも、今回のコラムは、これでは終わりません。

というのも、最終楽章のリティラータの旋律は、ボッケリーニのお気に入りだったのか、

後にいろんな形で別の曲に採用されたのです。

1799年に作曲されたピアノ五重奏曲ハ長調 Op.57-6 G.418 の第3楽章に、この旋律が使われています。

しかも、ただ使われているだけではなく、この旋律主題に11もの変奏を付けた、いわゆる変奏曲形式で作曲されました。

これが、なかなか上手い構成なのです。

最初は非常に弱い音で始まり、段々と音が大きくなり、クライマックスに到達した後は、また音は小さくなって終わるというもの。

なので、クライマックスの後は、それまでに弾いた変奏が再び登場します。

まるで、楽隊が遠くからやってきて、やがて去っていくという、パレードのような情景。

これもなかなか楽しい情景です。

ちなみに、私はこの楽章をピアニストとして演奏を経験したことがあります。

曲の持つ楽しさとは裏腹に、ピアノとして軽やかに音楽を作ることが案外難しかったことを記憶しています。

そう、現代のピアノでは、あの軽やかなパッセージを弾くのは不利なのです。

やっぱり、フォルテピアノで弾いたらいいのかなあ?

 

また、恐らくは1799年よりも前に、

ギター五重奏曲「マドリードの帰営ラッパ」による12の変奏曲も書かれました。

楽曲構成は先述したピアノ五重奏曲とほぼ同じ。

こちらの方が、ピアノ五重奏曲よりは演奏頻度が高く、演奏を聞いたことがある方も多いかもしれません。

 

話はやや脱線しますが、このリティラータは、イタリアの作曲家のルチアーノ・べリオ(1925-2003)によって、管弦楽に編曲されたものもあります。

これなんか、壮大な軍楽隊のようで、聞くとなかなか圧巻です。

 

こんなに長くコラムを書くには、ちゃんとした理由があります。

「マドリードの通りの夜の音楽」を、私が指揮者を務めさせていただいていますマンドリンアンサンブルの公演(2018年5月)で取り上げるからです。

今回の公演では、原曲の第1楽章から第4楽章までを私自身の編曲で、

その後はギター五重奏曲の版をそのまま使うことに。

そして、街の楽しい雰囲気をなるべく感じていただくために、ナレーションを入れることとしました。

以前から、この曲の演奏を聴くことが多々ありましたが、

とっても楽しい音楽のはずなのに、なんだかその楽しさが伝わらない演奏が多いなあと思っていたのでした。

ならば、ここでボッケリーニの愛したマドリードを多くの方々に味わってもらいたく、

決定稿を演奏しようと思ったのでした。

指揮者として、このような実験、是非とも成功したいものです。

さて、この実験、上手く成功したいなあ。

 

2018.3.7