vol.6 心の瞳

このタイトルを見て反応する方は、音楽教育に携わる方が多いのではないでしょうか。

そう、特に中学校でコーラスコンクールなどで取り扱われる曲として、知名度は高くあるのです。

でも、この曲、どうしてそんなに学校現場で人気が高いのでしょうか。

 

 

1960年代の坂本九
1960年代の坂本九

「心の瞳」は1985年5月に発売されたレコードのB面に挿入された歌謡曲です。

歌っているのは、「上を向いて歩こう」などで有名な坂本九です。

楽曲が完成した時、彼はかなり嬉しかったようで、家族にもその想いを伝えていたということです。

コンサートツアーのラストに歌いたいなあとか、

楽曲のテーマが絆であるとか、

人を愛することの尊さとか大切なこととか、

そんな素敵な心が洗われるような歌なのです。

ところが、この曲が人前で歌われることはなかったのでした。

 

 

墜落現場に建てられた慰霊碑
墜落現場に建てられた慰霊碑

1985年8月12日、航空機事故史上最悪の事故が発生したのでした。

日本航空123便墜落事故です。

死者520名、生存者4名という悲惨な事故は、

当時15歳だった私には強烈な記憶として残っています。

ニュースで流れる映像、次第に判明してくる事実に、衝撃を受けていました。

そして、この事故の犠牲者に坂本九が含まれていたのでした。

このことにより、「心の瞳」は人前で歌われることなく、遺作となってしまったのです。

残っているのは録音資料のみということです。

 

 

これでこの曲は忘れ去られてしまうのか、いや、そうではなかったのでした。

坂本九の葬儀で、この曲が流れたのでした。

音源にある彼の歌声に、彼の長女がピアノで演奏するという形で演奏されたのです。

彼が生前に残した数々のヒット曲が選ばれたのではなく、

結果として遺作となってしまった「心の瞳」が演奏されたことに、

残された家族の想いが詰まっているように思えましたし、

会場は涙に包まれたことだと思います。

 

 

その後、混声3部合唱として編曲されたことから、

オリジナルの合唱曲と勘違いされている方もいらっしゃるかもしれません。

それだけ、素敵な曲なのです。

 

 

私が現在非常勤講師として勤務しています高校は女子高校なので、

コーラスコンクールの際、女声3部合唱として取り上げられることがこれまでに度々ありました。

でも、それを歌っていた生徒たちは、この楽曲に纏わる悲しすぎる秘話を果たして知っていたのでしょうか。

 

 

今年度、高校の音楽の教科書がリニューアルされました。

私が勤務している高校の「音楽Ⅰ」という科目は、音楽之友社による「高校生の音楽1」を教科書として使用しています。

その教科書に「心の瞳」が採用されています。

私が教科書に採用されたこの素敵な曲を授業で扱わないということは考えられない、

そんな思いから授業で取り扱うことを先日しました。

歌詞をじっくり読めば「なんて心洗われる言葉なんだろう」と思い、

ピアノ伴奏をして生徒の歌声を聴きながら、涙が溢れてくるのを堪えることに必死だったのでした。

イ長調という生きる喜びを感じられる調性からスタートして、聡明に曲は流れていき、

転調して変ロ長調になったところからは、もう感情が抑えきれません。

1回目の授業では20分程度、2回目の授業ではほぼ40分かけてレッスンしたのでした。

 

 

日頃生活をしていて、果たしてこの曲の歌詞にあるように、

心の瞳で人をみつめることが出来ているのだろうか、

愛することの大切さを本当に知っているのだろうか、

絆を本当に大切に感じながら生活をしているのだろうか、

自問自答するこの頃です。

 

2013.5.10